2025.12.26

農と食とアートで、自然との共生を楽しむ──KURKKU FIELDSの実践【Inspiration Talk 第6回 前編】

東京の未来をリジェネラティブな視点から考える連続イベント『Regenerative City Inspiration Talk』。その第6回が10月15日、東京・八重洲のTokyo Living Labで開催された。

 

今回のテーマは「都市に失われた感覚を取り戻す〜都市をリジェネレートする食・農・自然体験とは〜」。ゲストには、千葉県木更津市で「持続可能な未来に向けた暮らし」を実践・提案するサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」の佐藤 剛氏を迎え、都市と自然、そして食をめぐるリジェネラティブなあり方について議論された。

小林武史氏の想いからスタートしたサステナブルファーム&パーク

第6回のゲストスピーカーを務めたのは、株式会社KURKKU FIELDSの佐藤 剛氏。東京都渋谷区出身で、幼少期から自然に親しみ、大学では野外教育を専攻。20代前半に奄美大島でネイチャーガイドをしながら理想の暮らしを模索した後、パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社、スーパーマーケット「福島屋」を経て、レザークラフトのブランドを立ち上げ独立。活動を続ける中で、2021年に縁のあった同社へとジョインした。

 

彼らが運営するサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」は、「持続可能な未来に向けた暮らし」をテーマに、農業、食、エネルギー、自然といった要素を実践・提案する場だ。千葉県木更津市にて、約30ヘクタール(東京ドーム約6個分)という広大な敷地に広がっている。

画像提供:KURKKU FIELDS

なお”サステナブルファーム&パーク”という構想は、2003年に、同社代表取締役社長で音楽プロデューサー・小林武史氏の抱いた思いが起点となっている。小林氏は同年の9.11のテロをきっかけに、ミュージシャンとして何ができるかを模索し、坂本龍一氏やMr.Childrenの櫻井和寿氏らと共に「一般社団法人 ap bank」を発足。その活動の中で「食べることと一次産業は切り離せない」という考えに至り、約15年前に農業法人「株式会社 耕す」を設立し、農場を始めた。そして2019年、同地を一般の人が訪れられる「KURKKU FIELDS」としてオープンした。

「農業」「食」「アート」を実践する場

佐藤氏は、この場での具体的な取り組みを「農業」「食」「アート」の3つの軸で紹介する。

①農業:水牛が耕す有機JASの畑

農業の軸はファームであり、約1000羽の鶏を育てる平飼い養鶏では、1日に約600個の卵が採れるという。特筆すべきは酪農で、日本では希少な水牛を23頭飼育。「現在、国産の水牛モッツァレラを生産できるのは、おそらくKURKKU FIELDSだけ」と佐藤氏は語る。また、農場外にも有機JAS認証を取得した圃場を持ち、例えばナスは最盛期には1日に800kg収穫。ファーム内での活用に加えて、イオングループやオイシックスなどにも出荷している。

②食:ジビエからピザまで、命の循環を味わう
画像提供:KURKKU FIELDS

場内には薪窯でピザを提供するダイニングレストランのほか、自社で生産した小麦を使ったパン屋、ジビエの店などがある。「農業を営む上で、畑を荒らす獣害は深刻な問題」と、佐藤氏は言う。

 

近隣の農家や狩猟者(約30人が登録)が持ち込むイノシシ、鹿、キョンなどのジビエは、多い年で年間1500頭にのぼる。KURKKU FIELDSでは「命を絶ってから30分以内」という厳格なレギュレーションを設け、搬入されたものだけを食用に加工。「目隠しして食べればジビエとわからないほどクリーンな味」(佐藤氏)を実現している。

③アート:意識変革のきっかけとなる作品群

場内には、草間彌生氏の作品をはじめ、10点以上のアート作品を展示。これは、小林武史氏の「世の中を変えるには、ストイックなだけでなく、多くの人に届ける必要がある」という思想の表れでもある。

 

「義務感や正義感よりも、とにかく『楽しい』『美味しい』『いいな』という感覚から入ってきてほしいと思うのです。その点でアートは、初めて見た時に頭を殴られるような衝撃を与えることができる。そこから、来場者の意識が変わるきっかけを作ることができます」(佐藤氏)

さらに、同社の事業は教育分野にも及び、校外学習や企業研修で年間約1万人が訪れる学びの場にもなっている。施設面では、3000冊規模の蔵書を持つ「地中図書館」や 、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」のデザイナー・皆川明氏とコンセプトから立ち上げた宿泊施設「cocoon」 、トレーラーハウス型の「TINY HOUSE VILLAGE」などを整備。今や、スタッフの数も100人規模となるまでに拡大を続けている。

実践の結果としてのリジェネレーション

KURKKU FIELDSの取り組みは、地球環境への配慮においても徹底している。同社が取得したのは、戦後に牧場として切り開かれた後、数十年放置されて荒れ地だったエリア。そこに、施設の立ち上げメンバー3人が、近隣の牧場からもらってきた堆肥を撒くところから始まったという。

 

2021年には、敷地内に千葉県初のメガソーラーを設置。FIT(固定価格買取制度)を初期の高い買取価格で活用し、現在は年間数千万円の収益を生み出すと同時に、場内の年間電力の約83%を自給している。

 

また、「土の循環」として、23頭の水牛が1日に出す約500kgのフンを廃棄物とせず、堆肥に変えて農場を支え、「水の循環」では、場内の浄化槽を通した排水をバイオジオフィルター(微生物や植物の力)によって浄化している。

 

「法律的には問題ないレベルですが、僕らはまだ(汚れとなる)有機物が多いと捉えています。この取り組みの結果、昨年ぐらいから排水の小川にホタルが飛ぶようになり、生態系が豊かになっているという実感があります。当時は“リジェネラティブ”という言葉を意識して始まったプロジェクトではありませんでしたが、結果として(環境が)再生しているのです」(佐藤氏)。

 

また今年、新たなミッションに「生きるを耕し希望をデザインする」、ビジョンに「『幸福』と『希望』を感じられる未来を創り出す」を掲げ、ベンチマークを2050年に置いた。その実践のためのコアバリューとして、「既成概念を壊しチャレンジする」「手をかけ努力を惜しまず質にこだわる」「ベストのために信じ助け合う」、そして佐藤氏が「一番難しい課題」と語る「自分の心と向き合い殻を破る勇気を持つ」という4つを定めている。

「合理的で刺激的な東京は良い反面、人とのつながりや自然との共生を感じにくい場所でもあります。そこで、アクセスも良い千葉にあるクルックフィールズが、共生を感じるために役に立てるのではないかと考えています」(佐藤氏)

 

サステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」の来場者アンケートによれば、プロダクトや商品の感想よりも「心が癒された」「(もしここがないと)おばあちゃん家や母校がなくなる感覚」といった声が寄せられるなど、物質的な価値提供ではなく、人の心を支える役割が果たせていることを実感しているという。

 

つづく後編では、ここまでの話を聞いた参加者から佐藤氏への質疑応答のほか、参加者の持つ「最近感じた自然」を共有するワークショップなどを実施。モデレーターを務めるFuture Food Instituteの深田昌則氏も加わりながら、佐藤氏のヒントをもとに、都市のなかで「リジェネラティブな暮らし」を実践する方法を考えていく。

 

(文・須賀原みち/撮影・後藤秀二)

プロフィール
佐藤 剛
Go Sato
株式会社KURKKU FIELDS

1980年生まれ。東京都渋谷区出身。幼少期からアウトドア好きの両親の影響を受け、自然を身近に感じながら遊び、育つ。高校、大学では野外教育を専攻。20代前半は奄美大島でネイチャーガイドをしながら理想の暮らしを模索。その後パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社で約10年勤務する中、環境とビジネスの在り方について学び、それまで趣味だったレザークラフトを衣と食の間にある革という素材に着目。手縫いのレザークラフトのブランドを立ち上げ独立する。2021年から千葉県木更津市にあるKURKKU FIELDSにジョイン。これからの社会の豊かさを実践、提案するサステナブルファーム&パークにおいて、人も自然に寄り添い、その土地を理解し環境がうまく機能するように日々、手を動かしこの土地に訪れる人たちに取り組みや想いを届けている。