2025.12.26

都市に潜む”小さな自然”から始めるリジェネラティブな暮らしとは【Inspiration Talk 第6回 後編】

前編では、「都市に失われた感覚を取り戻す〜都市をリジェネレートする食・農・自然体験とは〜」をテーマとして、「農業」「食」「アート」を実践するKURKKU FIELDSの取り組みを佐藤 剛氏が紹介。当初からリジェネレーションを意識しておらずとも、考えつづけ、実践した結果として周辺の生態系が回復していることにも触れた。

 

では、「都市のなかの自然」をどのように捉え、YNKのような場所に活かせばよいのか。参加者を交えたディスカッションも実施しながら、佐藤氏のヒントをもとに「リジェネラティブな暮らし」の実践方法を考えていく。

すでに支持を集める場を、より豊かにするために

前回で共有されたのは、千葉で自然との共生を目指す「KURKKU FIELDS 」の農業・食・アートを取り入れた取り組み。そして過去にとった来場者アンケートの結果では、その場所の物質的価値よりも、場所の提供する動的な自然との関わりあいが、来場者の心を支えていることがわかった。ここからは、こうした唯一無二の 「KURKKU FIELDS 」の取り組みについて、参加者からの質疑応答の時間に入っていく。

まず、参加者からは、他の類似施設との連携や、ライバル関係の有無についての質問が挙がった。それに対し佐藤氏は、「KURKKU FIELDS」の多角的な施策の組み合わせは国内外でも稀であり、明確なライバルはいないと回答。他社についても、むしろ「パートナーと思う気持ちが強い」とし、視察に来る人々とのつながりや、房総半島の他のプレイヤーとの連携が始まっていることを明かした。

 

さらに、「今感じられている課題や困っていることはありますか?」という質問について、佐藤氏は「社会にインパクトを与えるには、まだビジネスを大きくしないといけない」と、まだ社会に対し貢献したいことが多くある旨を伝えた。

ビジネスを大きくする際に特に課題となるのが、「いくら施設(箱)を大きくしても、それを届ける人がいないと難しい」という人材の不足や育成だ。佐藤氏は、代表の小林武史氏がスタッフをバンドメンバーに例えるエピソードを紹介。小林氏の理想は、会社らしいやり方よりも、音楽のセッションのように”自分が表現したい人”が集まることにあるが、「そんな人ばかりではないので、働いている仲間からそれを引き出すというのはすごく難しい。育成としては難しいなと感じています」と、葛藤を率直に明かした。

参加者が感じた、都市の中の自然

イベント後半は参加者を交えたワークショップとして、まず「最近、自然を感じた瞬間を5つ書いてください」という問いが投げかけられた。これに対し、会場からは「日没が早くなった」「秋なのに公園で蚊に刺された」 「カブや葉物野菜を食べて、冬が近づいていると感じた」 「銀杏の匂いや、踏んだ時の感触」 といった、五感を通じて日常に潜む季節の変化が共有された。

モデレーターを務めるFuture Food Instituteの深田昌則氏は、このワークの意図を「リジェネラティブな街を目指すには、こうした『小さな自然』を感じられる街にしたい、という思いがあります。だからこそ、このワークを通して皆さんにも日常で感じている小さな自然に意識を向けていただきたかったのです。都市に暮らしながらも、食や生産とつながる意識を再確認できるはず」と説明する。

続けて、「遠くに行かなくても(=都市の中で)リジェネラティブな暮らしを実践する方法」のディスカッションが行われると、参加者からは「旅行などで一度東京を離れて再び戻ってくると、かえって都市の中にある自然が目に入るようになる」といった個人の意識を変える視点や、「コンポストの実践」といった具体的な行動などが提案された。ほかにも「下北沢でアーモンドの木を見つけた」「恵比寿ガーデンプレイスの裏には畑(スパイスガーデン)がある」「都市に小さな森をインストール設置する活動『こもりす』を代々木上原で自ら実践している」など、東京のあちこちに存在する”小さな自然”も挙げられた。

自然側に立って考え、都会との間を溶かす

イベントも終盤に差し掛かり、佐藤氏は「明確な答えはありませんが」と前置きしつつ、「都会に住んでいると自然が遠いと感じがちです。東京生まれの人は少ないかもしれませんが、多くの人には地元の原体験があり、それを忘れているだけかもしれません。そして、これから東京で生まれる子たちの原体験がどうなっていくのか、不安に思うこともあります」 と心情を吐露。

 

さらに、深田氏が「都市と地方を分けるのではなく、都市の中にも自然はあるし、都市で地方の自然を感じる瞬間もある。人工か自然かという対立ではなく、両方をやっていくことが大事」と話すと、佐藤氏もKURKKU FIELDSでの実感を持って応える。

 

「雨が降るとみんな『うわ、雨だ』と嫌がります。でも農業をやっていると『ああ、よかった』と思う。自然側や生き物側に立ってみたりすると、違った視野が見えてくるんです。ビジネスも同じで、『不景気もまた良し』と捉えるように、違う人から見たら良い状況かもしれない。あまり線を引きすぎず、そこを溶かしていく方がいいのかなと思います」(佐藤氏)

 

最後に、佐藤氏は「KURKKU FIELDSの小林は、よく経営者目線で『私よりお金を持っている人はたくさんいる』という言葉を使いながら、未来への期待を語ります。IT企業で儲けた多くの若い人たちが、ビジネス的な見返りではなく、未来に投資をするようなお金の使い方ができれば、もっとリジェネラティブな実践ができるかもしれません」と、投資の重要性を説き、トークセッションを締めくくった。

その後、参加者たちは KURKKU FIELDSのつくる料理を実際に試食。猪のハム、キョンや豚のテリーヌといったジビエ料理や農場のミルクを使ったシフォンケーキなどに舌鼓を打ちながら、和気あいあいとした雰囲気の中で交流を深めていった。

 

(文・須賀原みち/撮影・後藤秀二)