
カフェ巡り、日記、アイドル——あなたの「好き」からリジェネラティブな活動が広がる【Inspiration Talk 第9回 後編】
2026年1月21日、東京・八重洲で開催された『Regenerative City Inspiration Talk』第9回。レポートの前編では、株式会社SEAMESのコミンズ・リオ氏が、社会課題解決を「筋トレ」や「早起き」にたとえ、アートとエンターテインメントの力で行動変容をデザインする意味について語った。
つづく後編では、参加者たちが自らの「好き」を社会課題と掛け合わせたワークショップを実施。カフェ巡り、日記、アイドルといったそれぞれの関心を起点に盛り上がった、ディスカッションの様子をお届けする。
社会課題をそのまま正面から訴えるのではなく、その人の好奇心や、「面白い」という感覚を起点にした働きかけをすること。そうして、あえて目的から「10度だけずらす」ことで人々のアクションを引き出す——リオ氏のその考え方と取り組み(前編を参照)を聞いたイベントの参加者たちは、ピンク、イエロー、ブルーという3チームに分かれてワークショップに参加した。SEAMESのプロワークショッパー、篠原美奈巳氏がサポートを務め、参加者にはSEAMESのワークシート「RE:UNIVERSE×REGENERATIVE」が配布された。今回のワークショップは、このシートに記された以下の4つのステップに沿って進行した。
<ワークショップの4 STEP>
STEP 1 「WHAT IS…?まずはブレストタイム」: 自己紹介とリジェネラティブな要素の抽出。
STEP 2 「THINKING」: 自分の「好き」を深掘りし、リジェネラティブとの接点を見つける。
STEP 3 「BUILDING とりあえず形にしてみる」: 理想の状態を定義し、企画としての独自性を設計する。
STEP 4 「PLANNING 計画を立てた上でさっそく取り掛かる」: 企画の具体的な開催要件を定め、社会への実装準備を行う(※本ワークショップでは概要説明のみ)。
この4つのステップのもと、リオ氏が「自分の好きなことやライフワークとリジェネラティブを掛け合わせた企画を作っていきましょう」と呼びかけ、ワークショップが始まった。

STEP 1 「WHAT IS…?」では、グループ内での自己紹介として、「名前」と「小学生の頃の放課後の楽しみ」を共有。そこから、「リジェネラティブ」という概念を自分たちの言葉で捉え直すために、ポストイットへ「リジェネラティブな要素とはこういうものかもしれない」という案を書き出し、会話をしながら、チームごとの「リジェネラティブ・リスト」を作成していった。
つづくSTEP 2 「THINKING」では、個人の「好き」や「最近ハマっていること」を起点に、その魅力の本質を解剖し、リジェネラティブな要素との接点を深掘りしていった。リオ氏も「審査員の立場ですが、審査だけするのではなくワークショップにも参加したい」といい、自らもワークに参加。そして各チームからは、日常の中に潜むリジェネラティブな可能性が次々と発表された。
ピンクチームの原点は、Googleマップに無数のピンを立てるほど熱中する「カフェ巡り」。花瓶一つにまで行き届いた店主の気配りに、SNS映えでは語れない深みを見出した。コーヒー豆のストーリーや店内アート作家の活動を掘り起こして伝えることが、地域の文化を次世代へ手渡すことになるという。
ブルーチームが見つけたのは、競馬・旅行・日本酒に共通する「行ってみるまで結果がわからない」というワクワク感だ。日本酒造り体験や地域の街歩きを企画の種に、さらにお年寄りを訪ねて地元の食や地酒を囲んで語らう「共助の旅」を提案。観光を超えたその姿こそ、リジェネラティブな旅の本質だと訴えた。

イエローチームのヒントは、中学時代の写真を見返したことで始まった「日記」にあった。他人に向ける言葉と自分だけに向き合う言葉はまったく違う——その気づきが、日記を「自分の物差し」へと変える。1年前の自分を振り返る「マインドチェック」の習慣が、他者の評価に左右されない静かな成長の感覚をもたらすと提案した。
そして、リオ氏が自身の好きなこととして挙げたのは、「相撲」と「年末の豪華な鍋」だ。街にあっても普段はあまり意識しない相撲部屋と、健康的な食である「ちゃんこ鍋」をつなぐことで、リジェネラティブな企画になるのではと提案した。
ワークショップの山場となるSTEP 3 「BUILDING」では、これまでに出た「好き」の芽を具体的な企画へと昇華させていった。ここでリオ氏が改めて強調したのは、SEAMES流のプロジェクト設計における核心、すなわち「10度ずらす」という考え方だ。
そこには、社会課題をそのまま正面から打ち出しても、人々の貴重な時間や関心を引き出すことは難しいという現実がある。大切なのは、本来の目的からあえて10度だけ角度をずらし、「面白い」「会いたい」といった純粋な好奇心を入り口にすることだ。参加者たちは、企画が実現した後に人々がどのような状態になっていてほしいか、その理想を定義し、そこに独自の工夫を掛け合わせていった。

ピンクチームは「思いやりのある社会」を理想に掲げ、そのツールとして「着物」を選択。ファストファッションの問題をあえてシリアスに語るのではなく、着物を通じて生産地を巡り、素材や労働環境のストーリーに触れる「問い直しの旅」を提案。消費者と生産者の分断を解消し、モノへの愛着を再生させる体験としてデザインした。リオ氏は地域固有の服からTシャツへと変わった歴史に触れつつ、「なぜ人は服を着るのか」を問い直す旅の深さに興味を示した。

ブルーチームが描いたのは、「街のアイデンティティを創るチーズケーキ」だ。バスクやニューヨークなど地名を冠したチーズケーキにならい、自分たちの街の名前をつけたチーズケーキを提案。素材や製法を考えるプロセスが、その土地の歴史や文化を掘り起こすきっかけになるとした。リオ氏は「アイデンティティに直結する、ほぼ100点の企画」と絶賛し、さらに、ボードゲーム的な遊びの要素を加えるなどすれば、面白さが加速すると助言した。

対してイエローチームが選んだテーマは「アイドル」だ。世界平和を願う歌詞のメッセージを体現するため、「実際に歌詞の内容を体験した人だけがその曲を歌えるカラオケ大会」を提案。歌手と同じ思いを持って歌うことで、そこに込められた理想をより強く感じようとする取り組みだ。リオ氏は「共感する想像力をあえて排し、直接経験を突き放す姿勢が非常に面白い」と、そのクリエイティビティを評価した。

ワークショップの最後では、リオ氏自ら、本イベントが開催されているYNKエリア(八重洲・日本橋・京橋)を舞台に、頭文字をとった「八日京(よかけ)部屋」を開設するという企画を提案した。このエリアで働く人や家族を集めて、力士と共に100回の四股(しこ)を踏んだ後、家庭で余った野菜を持ち寄って、巨大なキッチンで特製の「ちゃんこ鍋」を作り、みんなで囲んで食べようというアイデアだ。
力士が持つ健康的なパワーやエネルギーにあやかりながら、地域の未利用食材の活用と個人のウェルビーイング、そして街のコミュニティ形成を、相撲という伝統文化を通じて体現する——リオ氏はこの構想で、「10度ずらす」面白さを参加者に改めて届けた。イベント終了後も、ワークショップ時から変わらぬ熱量のまま“面白いリジェネラティブ”について話し合う声が会場に響いていた。
「10度ずらす」ことを意識すればよい——リオ氏のアプローチが、この日のワークショップを通じて少しずつ参加者の中に馴染んでいったようだった。

(文・須賀原みち/撮影・後藤秀二)

米国オレゴン州生まれ。大学在学中に大学生専門の音楽レコーディングスタジオを立ち上げ運営。テレビ局勤務を経て、世界の12の都市に1ヶ月ずつ滞在し、出会った人に同じ12の質問をインタビューする企画「World in Twelve」実行。2019年に現職である、アート・メディア・エンタメの力を通して社会課題に対する行動変容を生むプロジェクトの設計・実行を行うSEAMESを設立。日々の原動力は好奇心、多種多様な分野において自他共に認める重度なオタク性質の持ち主。