
「座ってよし、寝てもよし」が叶う、新・屋上庭園——都心で実現する「1% For Rest」が、人と街を再生させる
東京駅前に位置する東京建物八重洲ビルの屋上にある庭園をリニューアルし、リジェネラティブな「屋上庭園“DIG”」が誕生した。コンセプトは「1% For Rest」。勤務時間8時間の内1%=5分だけでも自然に触れ、多忙なワーカーたちが心身をリセットできる場があったら——。
毎朝出社してから夜に帰宅するまで、勤務中はオフィスの室内にこもりきり、という方も少なくないだろう。そもそも世界の人口の半数以上が都市部に暮らすようになったいま、近年では都市部での生活がストレスを増大させ、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすという研究結果も出てきている。一方で、「1日5分ほど自然の中で体を動かしたり過ごしたりするだけでも、気分や自己肯定感の向上が期待できる」という研究もあり、短い時間でも自然の中で過ごすことができれば、人の状態は変わるはず——そんな問いから、先述の屋上庭園は誕生した。3月19日にお披露目され、都市で働く忙しいテナント社員のために、この屋上を”人間再生の場”へと変えていく試みが、動き出している。この構想が形になるまでの道のりを、2人のキーパーソンに聞いた。
この屋上庭園プロジェクトは、「リフレッシュがパフォーマンスを上げる」というシンプルな出発点から始まった。人間は、たった5分の日光を浴びるだけでも、セロトニンの生成による幸福感・集中力・記憶力の向上、ビタミンDの生成による免疫機能の強化、目の健康維持やストレス軽減といった効果が期待できるという。そうして得られたウェルビーイングな状態が仕事のパフォーマンス向上につながり、街全体の再生へとつながっていく——そんな世界観を目指している。

屋上庭園“DIG”の使い方は、休憩以外にも多様だ。たとえば什器に埋め込まれたプランターで野菜を育て、収穫したものは周辺の飲食店や八重洲ビル内のレストランに卸す。そのような循環もデザインし、ビルと地域をつなぐ関係が生まれることにも期待する。また、青空の下で屋外ミーティングをするのもいいだろう。空が開けた開放感から、会議室では出てこないような意見が飛び交う場になるかもしれない。



そんな屋上庭園の空間デザインには、2人のキーパーソンによるリジェネラティブな思想が貫かれている。企画・運営を手がける伊達Luke敬信氏が問い続けたのは、「人と人、人と自然がどう関わるか」というコミュニティ・デザインだった。

「都心のビルにいると、自然というのは遠い存在になりがちですよね。企画にあたってはそこに着目し、この屋上庭園で、実際に自然に近づける、さらには手でも触れられる、といった接点をつくりたいと思いました。また、設置したベンチも、どう使うかを利用者の想像力に委ねる“余白”を大切にしたデザインにしたく、チームの皆さんと試行錯誤しました。結果、斜めの什器によって人との距離感も変わり、直角的に座るオフィスとは違う話ができそうな感覚があります。こうした場を活かして、今後はテナント社員さんが中心となり、屋上庭園でのイベントのアイデアなども生まれてきたら面白いと思っています」(伊達Luke氏)
さらに伊達氏は、この場に「コンポスト(生ごみなどの有機物を微生物の働きで発酵・分解させ、堆肥にする容器)」を導入。オフィス、レストランといった複合的要素が混在し、フロアごとに分断されがちな八重洲ビル内の「縦のつながり」を濃くし、さらにビル外の飲食店とも連携する「横の広がり」へと、屋上をハブとしたコミュニティの拡張を描いている。
「たとえば、八重洲ビルの飲食店で出た生ごみを堆肥にし、その土でハーブを育てて、また飲食店で使ってもらう。そういった循環をつくることで、ビルの中のコミュニケーションも活性化していくのが理想です」(伊達Luke氏)


こうした伊達氏の企画のもと、もう一人のキーパーソンとしてベンチや什器の設計・施工を手がけたのが、VUILDの黒部駿人氏だ。什器の内部にはプランターを組み込んでおり、苗木の育成も可能とした。コンセプトの核心にあるのは、「人間再生」というテーマだ。黒部氏がはじめに問い直したのは、「屋上に置くベンチとはこういうもの」といった固定観念だった。

「改めて考えると、自然界には、水平・垂直な面がほとんどないんです。岩も、木の根も、すべてどこかが斜めになっている——。人が河原の岩場に座るときも、体が自然と傾いて、心地がいいと感じると思います。今回の設計にあたっても、そこからヒントを得て、屋上庭園のすべての什器を”あえて斜めに設計する”ことを考えました。河原にいてリラックスしている時のあの感覚を、都会のオフィスビルの屋上で再現したかった。工業製品や企画品に囲まれた都心の人々の日々から、心と身体を解放したいと思ったんです」(黒部氏)
そして、一見バラバラに見える各家具だが、設計には緻密な仕掛けが施されている。
「斜めになっている部分の角度はすべて統一していて、隣に並べるとぴったりくっつくようにつくっています。バラバラなようで、実はひとつにつながれる——自由と秩序が共存している感じが面白いですよね」(黒部氏)
こうした複雑な設計を支えているのが、VUILDが得意とするデジタルファブリケーション技術だ。すべての什器は形状が異なるが、部材データをデジタルで一元管理することで、複雑な形状でも混乱なく製造・組み立てが可能になる。また、各パネルが意図的に傾けられているため、部材同士の仕口(接合部)には微妙な角度が必要になるが、こうした精密加工もCNCなどの機械加工によって高精度に実現している。さらに、すべてのパネルはキャスター付きの可動式だ。
「完成された空間を一方的に提供する形にはしたくなかった。使う人が動かして、自分たちの場所にしていってほしい。什器の一部に組み込まれたプランターも、見るだけでなく、自分で育てることで自然と関わっていただける場にしたいと思いました。東京駅前というのは、本当に人工的な環境ですよね。だからこそ、この屋上が唯一、自然に手が届く場所になれたらいいなと思っています」(黒部氏)


仕掛けるのではなく、自然と人が集まり、動き出す——そんな場所になることが、この屋上庭園の理想の姿だ。
取材の日、屋上庭園のオープンを祝い、テナント関係者を中心とするゲストが続々と来訪。提供されたハーブティーやクッキーを片手に、和やかな歓談が続いた。
屋上から見下ろす八重洲の街並みを前に、都市の真ん中に生まれたこの小さな庭が、やがてビルの内側から、そして街へと、再生の循環を広げていく——そんな予感が漂う午後だった。


1996年生まれ。大学在学中の2018年、海洋環境問題の解決に取り組むNPO法人「UMINARI (ウミナリ)」を設立し、代表理事を務める。また、Z世代を起点にしたコミュニティカフェ「um (アム)」をプロデュースし、共同代表を務める。その他、ベンチャー投資やまちづくりなど、国内外幅広い領域でアドバイザリーと実装を手掛ける。世界経済フォーラムExpert Network メンバー。

クリエイティブディレクター、フォトグラファー
1993年埼玉県生まれ。2018年よりVUILD株式会社にジョイン。
内装・什器・場づくりの設計や各案件の撮影を担当。