2026.04.08

廃漁網を地域の資源へ——amuが気仙沼で描く、「いらないもの」の再生成

東京建物とリバネスが推進する「Regenerative City Tokyo」の実証プロジェクトの一環として、大丸東京店9階の複合型体験ストア「明日見世(あすみせ)」では、2026年2月4日から4月28日までの約3カ月間、「彩(いろどり)から再生を伝える」というテーマのもと、捨てられた素材に技術とデザインで新たな命を吹き込み、色を起点に商品を展開する3社のプロダクトが展示されている。

 

この中で「amu(アム)株式会社」は、宮城県気仙沼市に拠点を置き、南は沖縄県石垣島や長崎県対馬市、北は北海道まで、全国の漁港ともかかわり「再生成」の取り組みを進める。同社が向き合うのは、長年、漁師町を支えてきたものの、役目を終えると厄介者として扱われてきた廃漁網だ。廃漁網に新たな価値を見出し、プロダクトとして届けるまでの取り組みや思いについて、同社の広報・プロダクト事業部の大野陽菜氏に話を聞いた。

 

無価値とされてきた廃漁網を次なる資源に

「いらないものはない世界をつくる。」——そんなビジョンを掲げ、2023年に創業したamuは、漁具の再資源化に取り組む会社だ。創業メンバー4人の中に気仙沼出身者はひとりもおらず、ボランティアや移住をきっかけにこの町に根を下ろしたメンバーが立ち上げた。漁師町ならではの文化と、そこに生きる人々の仕事への敬意が、創業の土台にある。

画像提供:amu株式会社

事業の方向性を決定づけたのは、CEOの加藤広大氏が現地の居酒屋でたまたま隣り合わせた、ひとりの漁師との会話だった。遠洋マグロ延縄漁師として世界中の海を旅し、大物を獲り続けてきたその話に、加藤氏は強く惹かれたという。漁業を軸に事業の種を探すうちに行き着いたのが、国内だけでも年間約6,000トンが廃棄されているという、廃漁網の問題だった。

画像提供:amu株式会社
画像提供:amu株式会社

「漁師さんが使い終わった漁網は、高額な処理費用がかかったり、塩分のせいで焼却炉を傷めたりと、これまでは無価値なうえ経済負担も大きいゴミとされてきました。しかし私たちは、漁師さんが世界中を旅しながら大物を獲ってきた背景そのものに魅力を感じています。廃漁網を無価値なゴミではなく、漁師さんから買い取らせていただく資源として捉え直したいと考えたのです」(amu広報・大野陽菜氏)

 

amuでは、分別の一部を気仙沼市内の就労支援施設に依頼するなどして、回収した漁網を分別・洗浄・破砕し、高度なリサイクル技術を持つパートナー企業と共に、高品質な糸や生地、プラスチックペレットを生成している。素材を化学的に分解・再合成する「ケミカルリサイクル」と、素材の物性を活かして別の製品へと再生する「マテリアルリサイクル」という2つの手法を用いて生まれた素材は、石川県の丸井織物株式会社で生地織り加工を行った「amuca®(アムカ)」ブランドとして提供してきた。

特筆すべきは、リサイクルしやすい一部の網だけを回収するのではなく、漁師たちの「全部持って行ってほしい」という声にも応えている点だろう。糸にできない複雑な混ざり物のある網も、マテリアルリサイクルによってサングラスなどの成形品にしたり、細かく砕いてセメントに混ぜてデザインタイルにしたりと、あらゆる活用法を模索している。

商品の背景にある物語を可視化する

今回の「明日見世」に出品されているのは、2025年に実施されたクラウドファンディングでも高い人気を誇った「Buddy 2face Tote」、「Buddy T-shirt」、「Buddy Bag」の3点だ。これらはすべて、気仙沼で回収された廃漁網を原料としている。

画像提供:amu株式会社

さらに、商品には「トレーサビリティ(追跡可能性)」のQRコードタグが付属。スマートフォンで読み取ると、その素材がどの地域でどのような漁法で使われたうえで、いま新たな製品に生まれ変わったのか、といった”物語”を知ることができる。

 

「単なるリサイクル素材の商品ではなく、背景にある地域の文化やストーリーに共感していただくことで、より愛着を持って長く使っていただけると考えています。例えば、Tシャツには『出船送り(でふねおくり)』という、気仙沼で出港する船をみんなでお見送りする文化や、特産のフカヒレを育む山の風『室根おろし』をモチーフにしたデザインを施しています。気仙沼市の紹介や網の回収方法をはじめ、山口県のUBE株式会社でリサイクルされ、石川県の丸井織物で生地となり、東京の三栄コーポレーションで縫製される——そんな素材の旅程も、QRコードを通じて伝えています。『漁師さんの相棒だった網が、次はあなたの相棒として寄り添いますように』という思いを込めているんです」(同)

出船送りの様子(画像提供:amu株式会社)

品質面も、アウトドアブランドの厳しい品質基準をクリアするほどで、バージン素材と同等の丈夫さを実現しているという。

アパレルを超えた異業種コラボも視野に

今回の「明日見世」への出品について大野氏は、「リジェネラティブな取り組みの価値を広く世に問うことに期待している」と話す。廃漁網を回収・再資源化し、プロダクトとして消費者のもとに届けることで、海洋プラスチックごみ問題の解決に寄与し、漁業者のコスト削減にも貢献しながら、地域の文化を消費者に届ける——。そうした循環をより強固なものにするため、売上の一部はさらなる廃棄物回収の活動費用に充てられるという。

「今後は、自社ブランドの成長はもちろん、企業様向けのノベルティやOEMの展開を広げていきたいと考えています。例えば水産食品のパッケージと私たちのバッグをお揃いのデザインにして販売したり、各漁港の特色ある商品を一堂に集めて展開したりと、アパレルにとどまらず、異業種とのコラボレーションを通じて広がりを持たせられるのがamuの強みです。地域性やデザイン性を活かした発信をすることで、多くの方に気仙沼という町を好きになってもらうきっかけを今後も作り続けていきたいです」(同)

「いらないもの」として処分されてきた廃漁網が、技術とデザインを纏ってプロダクトに生まれ変わり、使う人のもとで第二の人生を歩む——amuが「いらないものはない世界」と呼ぶその循環は、全国の漁師町の記憶を糸に、人とモノと海の新しい関係を静かに編み直している。

 

 

(文/須賀原みち 写真/尾藤能暢)