2026.04.09

「いつかなくなる」ために作り続ける——buoyが海洋ゴミに見出す、色彩という可能性

東京建物とリバネスが推進する「Regenerative City Tokyo」の実証プロジェクトの一環として、大丸東京店9階の複合型体験ストア「明日見世(あすみせ)」では、2026年2月4日から4月28日までの約3カ月間、「彩(いろどり)から再生を伝える」というテーマのもと、捨てられた素材に技術とデザインで新たな命を吹き込み、色を起点に商品を展開する3社のプロダクトが展示されている。

 

その一角で、ひときわ鮮やかな色彩を放っているのが、海洋プラスチックを素材としたプロダクトブランド「buoy(ブイ)」だ。プラスチックメーカーから生まれたこのブランドは、海に流れ着いた「どうにもならないゴミ」を、二度と捨てたくなくなるような美しい日用品へと生まれ変わらせている。ブランドの歩みとプロダクトに込めた思いについて、広報を務める小林輝星氏に話を聞いた。

 

「悪者」にされたプラスチックを救いたい

海に漂着するゴミ——中でも海洋プラスチックは、砂や貝、塩分、錆などが付着している上、素材が多種多様に混ざり合っているため、通常のプロセスではリサイクルができず、燃やすか埋め立てるしかない。そうした現状に対してプロダクトブランド「buoy」は、分別が困難な海洋プラスチックを100%リサイクルし、再び製品化するための特許技術を開発。素材ごとの分別・ペレタイズを不要とし、フィルムでコーティングし衛生面をカバーすることで、海から回収された素材を、新たなプロダクトとして生まれ変わらせてきた。

画像提供:buoy株式会社

「分別・ペレタイズを不要としているのは、拾ったプラスチックが海ごみ由来の混合素材であることを前提として、製品設計と成形条件を組み立てているからです。具体的には、樹脂ごとの差や異物の存在を完全になくすのではなく、素材の特性を踏まえて、厚み・形状・用途を工夫することで成形を可能にしています。その結果、海洋プラスチック自体がもつ特徴や色味が最大限に生かされた製品に仕上がります」(buoy広報・小林氏)

 

buoyのルーツは、横浜にあるプラスチックメーカー・株式会社テクノラボにある。同社は長年、IoT機器や医療機器など、人々の生活を支えるためのプラスチック製品を数多く生み出してきた。そんな同社にとって、昨今の「プラスチックを悪者とする風潮」は、見過ごすことのできない悲しい現実となっていた。

 

「人のためを思い、世の中を良くしたくて生み出してきたはずのプラスチックが、いつの間にか悪者扱いされてしまっている。その事実がすごく悲しくて、何かできることはないかという思いで立ち上がったのがbuoyというブランドでした」(同)

こうした思いから2017年頃に社内プロジェクトとして始動したこの試みは、2020年の合同会社設立を経て、2025年に株式会社として本格的な歩みを進み始めた。

「産地」が宿す色彩の物語

今回の「明日見世」に出品されているコースターやソープディッシュには、一つひとつ異なる豊かな表情がある。それは着色料によるものではなく、日本各地の海岸で回収されたプラスチック本来の色だ。

 

buoyの活動を支えるのは、北海道から沖縄まで全国に広がる約30のボランティア団体。同社は回収された海洋プラスチックを材料として購入することで、各団体の活動継続を支援している。

資料提供:buoy株式会社

「私たちは、buoyが主役なのではなく、海洋ゴミを回収されているボランティア団体さんが主役だと考えて活動しています。現地の方にお話を聞くと、『拾っても拾っても流れ着いて、終わりが見えなくて虚しい』という声も上がります。さらに、拾っても処理費用が捻出できず、ゴミ拾いを止められてしまう現状もある。それなら、私たちがそのゴミを買い取って新しい製品にすることで、またゴミが拾えるようになる……そんなつながりをどんどんつくっていきたいと考えています」(同)

商品タグにはごみの採取地を記載(画像提供:buoy株式会社)

商品に付随するQRコードを読み込めば、その地域のSNSへ応援メッセージを送ることも可能だ。また、どの地域でどんな団体が拾ったゴミなのかという「産地」も必ず明記されており、そこには単なるリサイクル製品という枠を超えた、地域ごとの個性が宿っている。

 

例えば、日本海側や九州には海外からの色鮮やかなゴミが流れ着きやすく、太平洋側はペットボトルやお菓子の袋など、陸の生活に起因する落ち着いたトーンのゴミが多いのだそう。また、広島周辺では牡蠣の養殖に使われるパイプが混ざるなど、その土地の文化や潮の流れが色彩として現れる。

 

「『このゴミはいい色で可愛いコースターになりそう』と宝探しに思えたり、拾うゴミを色別に分担したりと、回収作業のモチベーションが上がったというお声もいただきます。『子どもの頃に遊んだ海を守りたい』『きれいな海を次世代に残したい』といったそれぞれの想いが、誰かへのプレゼントや地域のお土産として形になることでも喜んでいただいています」(同)

「いつかなくなるため」のブランド

熱プレスで素材を融着させることで生まれる、色鮮やかで複雑な模様——それがbuoyのプロダクトに華やかな個性を与えている。ソープディッシュには水回りに馴染乳白色ベースで高級感のある仕上がりのものも。日常の中でこれらに触れることで、海の現状や環境について家族や友人と語り合う会話のきっかけにもなっているという。今後は小さな雑貨だけでなく、一度に数キロのプラスチックを消費するスツールや、テーブルといった大型製品の展開も強化していく。

現在、buoyは新潟の福祉事業所での粉砕工程を経て横浜で製造を行っているが、将来的にはこの工程の地産地消を目指している。北海道で拾ったものは北海道で、沖縄のものは沖縄で製品化するという、地域モデルの構築だ。

 

「今後は地域でのゴミ回収がより進むように、私たちも大きくなっていかなければいけないと思っています。海洋ゴミは一社だけでやって解決できるほど小さな問題ではないので、ほかの企業さんともぜひ協力していきたいです。私たちはいつも『buoyはいつかなくなるために存在するブランドです』と言っています。可愛い商品を見て『ゴミを拾いたい』『プラスチック製品の使い捨てを控えよう』と言ってくれる人が増えることで、最終的に『もうゴミがなくなったので作れません』と言える未来が来るよう、活動を続けていきたいです」(同)

海に漂着した「どうにもならないゴミ」が一点もの日用品に生まれ変わり、使う人の日常に色を添える。buoyが目指すのは、自らが必要とされなくなる未来——その逆説的なビジョンの中に、再生とはただ素材を蘇らせることではなく、人と海の関係そのものを変えていくことだという、静かな確信が宿っている。

 

 

(文/須賀原みち 写真/尾藤能暢)