
大都市への一極集中や地方都市の消滅危機、都市インフラの老朽化など様々な課題が顕在化している今、まちの「再生」が求められている。各都市に眠る自然や歴史などの資源を再発見しながら、都市インフラと人々の生活・文化を再生させるために、我々は何ができるのだろうか? 今回は「リジェネラティブ(再生)」をキーワードに、都市デザインの研究者へ話を伺った。

気候変動や生物多様性の喪失などの地球環境問題が加速する中で、サステナブルを超えて、人間社会や自然環境の双方を再生へと導くリジェネラティブな都市計画への関心が高まっている。
東京大学大学院工学系研究科で都市計画を研究する中島弘貴氏は「技術と社会が同時に進化しなければ世の中は変わらない」という思いを持ち、その進化の具体的な場として都市を捉えている。都市という言葉が本来持つ「市街地だけでなく、生産の場としての農山漁村を含む範囲」という定義に立ち返り、リジェネラティブな視点から、都市と農山漁村の循環を現代的につくり直すことが重要だと考えている。この循環は最初は地続きではないかもしれない。しかし、循環をつくる担い手がその活動を近隣に展開すれば、実現可能性は高くなるだろう。
この循環を生み出す中島氏らの取り組みとして、松戸市文化ホールで行われたRegenerativePileプロジェクトがある。これは、青森県の合板製造過程で廃棄されていた剥き芯を使って分解可能なベンチを作り、公共空間で木材を乾燥させ、市民参加型のワークショップで活用法を検討した後に、内装材や家具へとアップサイクルするものである。廃棄物の削減・温暖化ガスの削減・居場所の創出・廃材の価値化といった複数の成果を一度に生む「一石N鳥」を狙った取り組みであり、今後は農山漁村部へ木材の再投資を視野に入れているという。
プロジェクトに関わる人・モノ・空間が同時に再生されるプロセスが盛り込まれており、中島氏が考えるリジェネラティブデザインの実践事例だといえるだろう。
一石二鳥のように複合的な価値を生み出すには「社会起業家・自治体・大企業などの異なるプレイヤーが出会い、自己組織化による自律的な共創が求められる」と中島氏はいう。例えば建築分野では、資材のトレーサビリティを実現するマテリアルパスポートが注目されている。中島氏はこうしたモノや人のネットワークを可視化・共有する仕組みが偶発的な協働を生みだすと考えている。未だ見ぬパートナーや資源の探索可能性が、自発的な取り組みへ派生していくダイナミックなエコシステムの起点になるのだ。
都市と農山漁村の循環を通じて、自然や産業、文化の再生がシナジーを生む共進化型の地域を構築することは、地球環境問題を解決するだけでなく、地方都市や農山漁村で暮らし続けることを可能にして、居住地の選択肢を増やす方策となりうる。共進化型の地域を構築する中で、シナジーだけでなく、トレードオフが生まれることもあるだろう。
例えば、再生プラスチックは、再加工の過程でかえって環境負荷を増加させてしまう場合もある。そうした二者択一にも目を向け、文化的・社会的なウェルビーイングを含む多様な価値を共存させながら、100年単位の長期的な時間軸で、一人ひとりの暮らしと地球の共進化を目指すことが重要であろう。
(文・鈴木 雅矩)

工学系研究科 都市工学専攻 特任講師
専門 都市工学
1988年生まれ。設計事務所(ria)勤務を経て、2020年東京大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了、2021年4月より同大学未来ビジョン研究センター・連携研究機構不動産イノベーション研究センター特任助教を経て現職。博士(工学)。一級建築士。