
「製材」前の木を乾燥しながら利用し、木材に戻して返す——「木の間の庭」をみんなでつくるまで
2026年4月、東京駅にほど近い八重洲のオフィス街に、木の什器がゆるやかに並ぶ「庭」のような場所が誕生した。その名は「木の間の庭」。若手料理人の挑戦を支えるキッチンカープロジェクト「チャレンジキッチン」の敷地を舞台に、Regenerative City Tokyo構想が掲げる「リジェネレーション(再生)」の思想を、まちなかで形にした場所だ。
その「リジェネレーション」の思想を、どのようにして目に見えるかたちに落とし込んでいったのか——屋外空間を設計したのは、若手クリエイターによる一般社団法人ASIBA(アシバ)。同社の秋山真緩氏と、重松希等璃氏による共同設計だ。またその図面を実際に組み上げ、什器をつくったのが、「Do It Together」を掲げてものづくりをサポートする&kidea.(アンドキデア)である。乾く前の木材を「使いながら乾かす」というチャレンジングな素材選びから、訪れた人と一緒に組み立てるワークショップまで。設計を手がけたASIBAの秋山真緩氏と、制作を担った&kidea.の白濱匠太郎氏に、この場が生まれるまでのプロセスを聞いた。
「木の間の庭」の中心にあったのは、ウッドデッキと、木の箱のような什器だった。その空間全体を共同設計した一人が、秋山氏である。あらかじめ使える区画は決まっていて、そこにキッチンカーが置かれる——その条件から、設計は始まった。
「ウッドデッキと什器を、人がどう滞在して、買ったり、食べたりして使えるか。その空間のデザインを中心に考えました」(秋山氏)
設計の根っこに据えたのは、リジェネレーションというテーマ。そもそもチャレンジキッチンが行われていた場所は、次の建物が建つまでの間の「余白」とも言える空間だ。そこで木材も、まだ製材の途中——乾燥を待っている材料だった。檜原村の東京チェンソーズから木を借り、使い終えたら、また返す。そんな循環が、設計には組み込まれていた。
「目をつけたのが、『製材』前——つまり、乾燥を待っている段階の木材です。通常、家具や建材として使う木材は十分に乾燥させて水分を抜いてから使用します。それをあえて、乾燥前から使用することで、場所や機会を有効活用しようと考えました。檜原村の東京チェンソーズさんから木を借り、使いながら乾燥もしつつ、期間が終わったら、また返す。
木材って、乾燥させる工程で、組み上げて重ねるんです。そのイメージから、ウッドデッキや家具も、木材と木材の間に少し隙間を空けて重なるような設計にしました。椅子にも多くの木材を使い、たくさんの木を乾かそうと考えたんです」(同)

役目を終えた木は、ビスを外し、切り出して、また次の用途へと戻っていく。完成品ではなく、循環の途中にある木を、その一時期だけ什器として借りていた——そんな状態に近い。
もう一つ、秋山氏がこだわったのが、使い方を“限定しない”形だった。什器は、机にも椅子にも台にもなる、抽象的な四角い箱。デッキの溝に合わせてスライドや固定ができ、高さや数も組み替えることが可能だった。
「拡大縮小していける、増幅可能なシンプルな形にしました。一人でも使えるし、複数で集まっても使える」(同)
差し色のオレンジと青は、キッチンカーと壁画から取ったキーカラーだという。ビルとビルの間の暗がりを明るくするねらいもあり、夜には照明が灯った。
設計を担ったASIBAは、亀戸の廃ビルを自分たちで解体しながら拠点とする、若いクリエイターたちの集団だ。プロジェクトごとに、ギルド的に得意分野を持ち寄って動いていく。大学院生でもある秋山氏にとって、空間を“場”として設計したのは、これがほぼ初めての挑戦だったという。
「学生が参加できる、実際に社会にアプローチできるプロジェクトは少ない。実験的だけど、実際に使える空間を、社会に出してみる。それに取り組めたことが、とてもありがたかったです」(同)
そうした秋山氏の設計を、実際に組み上げたのが&kidea.の白濱氏である。ただし白濱氏は、自らを「建設業者ではなく、ただのDIYヤー」と言う。
「ASIBAさんが主な設計をしてくださった後、それを手直ししながら、実際にできる形に落とし込んで、施工する。それが僕らの役割でした」(白濱氏)
&kidea.が大切にするのは、「共につくる」こと。一緒に手を動かせば、その場所に愛着が湧く。技術を覚えれば、のちの修繕や、次に何かをつくるきっかけになる。だから内装やものづくりは、できるだけみんなで——その考えを、無料のワークショップとして開いている。
「ワークショップでものづくりをすることは、僕らからすれば、たくさんの方が手を動かしてくださって助かる。参加者さんからすれば、教えてもらいながらやれる。どっちにもメリットがあるんです」(同)

今回の「木の間の庭」も、参加者が板の状態から電動ドライバーで什器を組み上げた。素材は、秋山氏の設計どおり、乾く前の木材。水を含んでいるぶん、市販の材とは勝手が違い、伸び縮みや反りも出る。
「重たいので、一人で組み立てるのが難しい場面もありました。でも、一緒につくるメリットを生かして、協力し合えば、苦労なくできるんです」(同)
木の“狂い”を逆手に取ったのが、設計の余白だった。精密につくり込みすぎると、変形したときに困る。だから、多少狂っても大丈夫なくらいの余裕を持たせる必要があった。大きな板のまま、できるだけ多く残しておきたい——その思いが、あの箱型の什器につながった。
この取り組みのリジェネラティブな点はどこか。そう尋ねると、白濱氏の答えは「捨てない」という一語に行き着いた。定量的に測ったわけではない、と前置きしつつ。
「一度家具として出回った木材は、安い大量生産のものだと中身がスカスカで、廃棄にすごく力がかかる。そもそも廃棄させないこと自体が、環境負荷の軽減に寄与しているんじゃないかと」(同)
白濱氏自身、自宅の家具はほとんど手づくりだという。ベッドも、愛猫のためのキャットタワーも。引っ越すたびに、捨てて買い替えるのではなく、少しずつ形を変えて使い続ける。「木の間の庭」の什器も、ビスを外せば、また使える。
「新しくこの材を工場でつくる分が浮く。小さなことだけど、みんながやれば、だいぶ変わっていく気がします」(同)
そしてもう一つ、白濱氏がこの場に込めたのは、人への願いだ。ものづくりを生業とする自分も、たまたまの出来事が重なって、いまがある。だからこそ、と白濱氏は続ける。
「『Together』のTで、みんなで共につくる。今日やった中で、これは得意だな、と思えるものを見つけて帰ってほしい。逆に、これは苦手だ、でもいいんです。ものづくりをどう感じたか、それが大事だなと」(同)
ここで木の椅子に触れた誰かが、「いいな、つくってみるか」と思ったかもしれない。その小さな芽が、いつか人生の選択肢の一つになっていく——そんな可能性が、この場には宿っているのである。
設計図の上の循環ではなく、重い生木をみんなで担ぎ、組み、やがてほどいて、また還す。「木の間の庭」は、素材も、技術も、人の関わりも巡っていく場所として立ち上がり、9月にはその役目を終える。乾きかけだった木が、いつか次の建物の柱になっていくように、ここで芽生えた「つくってみよう」もまた、どこかへ巡っていくのだろう。
(写真/尾藤能暢)