
「2048年までに、私たちは3.5個の地球を必要とする」
ヨーロッパ初のベネフィット・コーポレーション(米国の法人形態の一つ)を立ち上げ、イタリアで再生型ビジネスの法制化を牽引してきたNATIVAの共同創業者、エリック・エゼキエリ氏は、自身の試算による危機感とともに、明確な解決策を示す。それが「リジェネラティブな経営」への転換だ。
奪う以上の価値を創造し、利益と社会・環境への貢献を両立させる——。一見理想論に聞こえるこの新しいビジネスモデルこそが、ここ数年、イタリアにおいて従来型企業の2倍近い成長率を示している。RegenerAction JAPAN 2025で、エリック氏は法制度からガバナンス、具体的な実装ステップまで、20年以上の実践から得た知見を語った。
私たちは今、人類史上最大とも言える変革の時を迎えています。ビジネスの役割について考えるとき、私はよく1602年に設立された世界初の株式会社と言われるオランダ東インド会社の例を用いています。彼らは東洋と西洋の間で商品を取引し、利益を上げていました。しかし、その主要な取引品には人間も含まれており、多くの奴隷が取引されたという歴史があります。
当時、それは当たり前のビジネスモデルでしたが、現在では不適切なものであることは言うまでもありません。当時は人間に対しても適切な「考慮」がされていなかったのです。しかし、私たちはもう奴隷貿易はしていないものの、ビジネスの方程式において、人間と環境を適切に考慮できているでしょうか。真に再生するビジネスをどのように生み出すか、それにはまったく新しい形のガバナンスが必要だと考えています。
私が共同創業したNATIVAは、20年以上前に構想され、約12年前に正式に設立されました。ビジネスの概念そのものを変え、リジェネラティブなパラダイムへの移行を加速させることに取り組んでいます。私たちはヨーロッパやラテンアメリカを中心に活動する約70名のチームで、リジェネレーションの概念を取り入れた世界約2万5,000のビジネスによるグローバルな動きの触媒となっています。
リジェネレーションとは何か。私たちは非常に単純な方程式で説明しています。「事業運営のために奪う価値よりも、多くの価値を生み出す必要がある」ということです。私たちは経済的価値を測るのは得意ですが、社会的・環境的価値を測るのはそれほど得意ではありませんでした。この方程式こそがリジェネレーションです。

そもそもなぜ今、リジェネレーションが重要なのでしょうか。過去200年で、人類の状況は劇的に変化しました。1800年当時、最も豊かな国であったオランダでさえ平均寿命は40歳、一人当たりGDPは現在の5,000ドル以下相当でした。当時およそ10億人と言われていた世界人口の大多数が「地獄」のような状況にあったのです。それが2000年以降、健康と富は劇的に向上しました。現在ではおよそ10億人が良好な健康状態と十分な富を持ち、残りの75億人がその状態を望んでいる状況です。
しかし、考慮すべき点があります。2023年の世界GDPは約105兆ドルに達しましたが、そのために私たちは地球1.75個分の資源を消費しています。当然、地球は1つしかありません。世界経済は過去62年間、年率3%で成長してきましたが、これは今後25年で倍増すると仮定した場合、私の試算では、2048年には地球3.5個分の資源が必要になるという数字です。1.75個分さえ持続不可能なのに、3.5個分など不可能です。




経済成長が必ずしもウェルビーイング(幸福)の増大と一致しないことは、すでに明らかになっています。すべてのビジネスがリジェネラティブにならない限り、人類がこの地球に留まる方法はありません。

この現状を変えるべく、私たちは新しいモデルを必要としていました。NATIVAでは2012年、自社の定款に「リジェネラティブな企業であること」を目的として記載し、ミラノ商工会議所に提出しました。結果は、「却下」。当時のイタリアの法律では、企業は株主のために価値を生み出すこと以外はできず、社会や環境のために価値を創造することは「違法」とされたのです。

そこで私たちは、企業の目的がこの共有価値の創造であることを明確にするための新しい法律の導入を提案しました。「経済活動を行う上で、利益の創出に加えて、一つ以上のリジェネレーションの目的を追求する」企業を認めるという法律です。この法案は2015年に可決され、私たちの経済活動は公に合法化されたのです。

リジェネラティブなモデルには、2つの基本的な要素が必要です。1つはガバナンスの更新です。これらの目標は会社の戦略計画の一部でなければなりません。株主は経営陣に対し、これが目的であることを正式に、法的にコミットする必要があります。そしてもう1つは測定です。コミットするだけでは不十分で、進捗を測定しなければなりません。毎年、目標を設定し、達成できたか否か、その理由を分析し、次の年の計画に反映させる。これが経営戦略の一部となるのです。

このリジェネレーションの目的を追求するビジネスモデルを採用している有名な例が、皆さんもご存知のパタゴニアです。彼らは環境、人々、エコシステム、透明性に焦点を当てており、そのリジェネラティブなコミットメントは定款に明記されています。イタリアのIlly Coffee、Chiesi Farmaceutici(キエジ・ファーマ)の例もあります。
ここで興味深いのは、すべての企業が異なる「リジェネレーション・プロフィール」を持っているということです。これは、環境、社会、従業員、顧客といった多様な領域における、その企業の取り組みや貢献度を測定し、可視化したものです。
企業のパーパスやビジネスモデルによって、注力すべき領域には濃淡が生まれます。優先度の高い領域にはより多くのリソースが割かれ、そうでない領域への投下は相対的に抑えられます。
そのため、各社のリジェネレーションの取り組みにおいては、パタゴニアやダノンとは異なる特徴があります。
重要なのは、すべての企業が自社の現状のプロフィールを測定し、野心的な将来目標を設定し、戦略計画を通じて成長していくことです。パタゴニアの利益が2011〜2019年の間に倍増したように、リジェネラティブなインパクトを高めることと、収益性の高いビジネスであることの間に矛盾はありません。
現在、イタリアでは約6,000社がこのモデルを採用しており、約25万人を雇用し、総収益は約700億ユーロに達しています 。食品関連企業だけでも700社以上が存在します。


NATIVAおよびイタリアの大手銀行であるインテーザ・サンパオロをはじめとする、パートナーによって実施された調査によると、
リジェネラティブ・ガバナンスのモデルを採用している企業の成長率は従来型企業の約2倍であり(2019〜2023年で37%対18%)、収益性も約0.5%高いという結果が出ています。

こうした動きは、個々の企業を超えて都市全体へと広がっています。イタリアの「メイド・イン・イタリー」省は、これを未来のモデルであると宣言しました。さらに、私たちは首都ローマの市長とも連携し、市内で活動する10万の企業の間で、リジェネラティブなビジネスを推進する取り組みを行っています。他の自治体も動き出しており、これらの企業が一体となって、都市のためのリジェネラティブな力を生み出そうとしているのです。

最後に、なぜリジェネラティブ・ビジネスを推進していく必要があるのか、3つの考えをお伝えします。
第一に、リジェネラティブ・ビジネスはスケーラブル(拡張可能)です。第二に、リジェネラティブ・ビジネスは収益を生み出すことができます。戦略的に実行し、適切なツールと能力を持てば、間違いなく収益性を確保できます。そして第三に、リジェネラティブではない他のすべてのビジネスは時代遅れになるということです。リジェネラティブでありながら収益を上げられるのであれば、なぜ搾取的で破壊的なビジネスを続けていく必要があるのでしょうか。
リジェネラティブ・ビジネスは倫理的に正しいだけでなく経済的に賢明で、理想主義だけでなく、現実主義でもあります。まさに、「当然の選択」なのです。
つづく後編(公開準備中)では、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香氏との対話を通じて、再生型ビジネスを実装する際の具体的な課題——トップマネジメントのマインドセット転換、重要なステークホルダーの特定、危機が果たす役割、そしてビジネスリーダーへの実践的なアドバイス——について深掘りしていきます。

ヨーロッパ初のベネフィット・コーポレーションであり、イタリア初のB Corpである NATIVA のレガシー・オフィサー。同社はパオロ・ディ・チェーザレと共同創業し、リジェネラティブなビジネスモデルの普及を加速させることを目的としている。
2016年には、ベネフィット・コーポレーションをヨーロッパに導入し、またイタリアにおける同法人格の導入に寄与した功績により、グローバルBコーポレーション運動から 「Most Valuable Player 2016」に選出。2018年には「Good Lobby Award」を受賞。
これまでに The Natural Step International 会長、Singularity University Italy の共同創設者、そして G7 People Centered Innovation Advisory Board のメンバーを歴任。
また、Assobenefit の共同創設者兼理事、Regenerative Society Foundation の共同創設者兼理事でもある。