
自然資本の増進と経済成長の両立を目指す——みずほFGが切り拓く、ブルーエコノミーの最前線【Inspiration Talk 第13回 前編】
2026年6月18日、東京建物株式会社とFuture Food Institute(FFI)が共催する連続イベント『Regenerative City Inspiration Talk〜東京からリジェネラティブな都市の未来について考えよう!〜』の第13回が開催された。
テーマは「都市の資本が、地域の生態系再生へとつながる〜リジェネラティブな事業を経済的に成立させ得る金融の仕組みとは〜」。自然資本を増進することで地域に豊かさをもたらす——社会課題解決と経済成長の両立にむけた取り組みに、金融機関としてどう向き合うのか。
ゲストは、みずほフィナンシャルグループのサステナビリティ・チーフストラテジストである大谷智一氏。前編では、自然資本を消費し続ける経済構造に危機感を抱き、「このままで持続的に成長できるのか」という問いに向き合いながら、新たな成長分野「ブルーエコノミー」の可能性を切り拓こうとする大谷氏の歩みを紹介する。

今回のゲストであるみずほフィナンシャルグループの大谷智一氏は、2019年からサステナブル・ファイナンスのプロダクト開発を主導し、現在はチーフストラテジストとしてグループ横断で自然資本・資源循環・インパクト領域のビジネス戦略を統括している。
大谷氏はこれまでのキャリアで、未実装の領域に社会実装の道筋をつけることに取り組んできた。2003年の再生可能エネルギー黎明期における調査研究を皮切りに、地方再生と再エネを組み合わせた事業開発、ルワンダ共和国では現地に適したリンドウ栽培の自律型ビジネスを確立させた実績を持つ。
一方、大谷氏は世界各地の現場で、自然資本に依存した従来の経済構造が抱える課題も実感してきたという。2024年に訪れたフィリピン・ミンダナオ島では、森林伐採の影響で植生が変化した土地や、農薬の使用を重ねたことで土壌環境の悪化が進んだバナナ農園を視察した。

「私たちが日常的に購入している農産物の背景には、自然資本への負荷を伴う既存の経済システムがあります。こうした仕組みを見直し、お金の流れを根本から再構築する必要があると痛感しました」(大谷氏)
大谷氏と東京建物をつないだのは、海藻の陸上養殖・生産を手がけるスタートアップ・合合同会社シーベジタブルだ。東京建物が、都市における海藻の魅力発信拠点として、海藻ラーメン店「シーベジスタンド」のオープンをサポートする一方で、みずほは、佐賀県唐津市でシーベジタブルとともにネイチャークレジットの共同研究を推進。この「シーベジタブル」を介したつながりが、大谷氏が今回のイベントに登壇する契機となった。
大谷氏は、金融機関として〈みずほ〉がサステナブルファイナンスに注力する意義を次のように話す。
「金融機関の事業活動においては、直接的に自然資本を大量消費することは少ないです。しかし、みずほの投融資先には、化学、自動車、食品など、自然資本との関わりが深く、環境への影響も大きいセクターが多く含まれています。こうした自然関連リスクが顕在化すれば、長期的には顧客企業の事業への影響が懸念され、金融機関の投融資リスクにもつながり得ます。(大谷氏)
だからこそ、金融機関がサステナブル・ファイナンスを通じて、顧客企業の持続可能な移行を後押しすることには、大きな意義があるという。
みずほが推進する自然資本への具体的なアプローチとして、大谷氏は新たな市場としての成長ポテンシャルが非常に大きい「ブルーエコノミー」の領域を提示する。ブルーエコノミーとは、水産養殖や港湾活動、輸送観光といった既存分野から、ブルーカーボンや陸上養殖、藻類を工業資源化するブルーバイオエコノミーといった新興革新分野までを広く包括する概念だ。

2030年には世界で約500兆円の市場規模に達すると推計されている。また、二酸化炭素の吸収能力においても、海洋生態系(ブルーカーボン)は陸上植物の約10倍のポテンシャルを持つといった環境・社会価値を持つ。
しかし、海洋分野には大きな資金ギャップがある。SDGsゴール14の達成に向けて必要な資金に対し、海洋関連のファイナンスはまだ十分に広がっていない。陸上と比べて海の中は見えにくく、自然価値を客観的に評価することが難しかったことが要因の一つとされる。
〈みずほ〉は本邦初となるマルハニチロのアトランティックサーモン陸上養殖事業に対する50億円規模の「ブルーボンド」の発行支援や、岩手県の藻場造成などを対象とした藻場の整備支援、さらに磯焼けの主因であるウニを漁師から買い取って陸上で養殖して味を高めて販売するプロジェクトへの出資などに取り組んできた。
ここで、会場からは「ブルーボンドに先行して取り組む意義とは何か」という質問が上がる。

ブルーボンドの組成には、評価や認証を含めた準備が必要ですが、金融機関が主体的に取り組むことで、自然資本分野への資金流入を後押しすることにつながると考えています。(大谷氏)
そのほか会場からは、日本近海での藻場の減災効果や、ブルーエコノミーに携わることへの社内での温度感について質問が寄せられる。大谷氏は、マングローブのように藻が波を和らげる役割を果たし得ること、そして「食べて、守って、儲かる」藻の循環をシーベジタブルとともに模索していることを語った。
ここで議論の節目として、〈みずほ〉が制作したブルービジネスに関するコンセプト動画を上映。動画では、産業・生物・人間の営みをつなぐ基盤として「水」を捉え、〈みずほ〉としてブルービジネスへの取り組みを進める方針が示された。
「水」という共通言語のもと、組織を動かし始めた大谷氏。後編では、その挑戦が「インパクトを貨幣換算しない」という独自の哲学を持つ金融商品の実装へと結実していく軌跡と、参加者を交えた対話セッションで語られた、リジェネラティブな事業に資金を呼び込むための現実的なヒントをお届けする。
(文・須賀原みち/写真・尾藤能暢)

サステナブルビジネス部 サステナビリティ・チーフストラテジスト
農林水産業や再生可能エネルギー分野での事業開発を皮切りに、サステナブルファイナンスのプロダクト開発を主導。2024年より、みずほフィナンシャルグループ・サステナビリティチーフストラテジストとして、グループ横断のサステナビリティ戦略(自然資本・ブルービジネス、サーキュラーエコノミー)を主導している。京都大学ネイチャーポジティブスクール講師など対外活動にも取り組み、金融×自然資本×企業経営の統合をテーマに活動中。