2026.10.26

「緩和」と「適応」、異なる出発点から生まれた同じ答え——気候変動をビジネスチャンスに変える発想の転換【Inspiration Talk 第15回 後編】

「明日の天気は変えられなくても、100年後の天気は変えられる」——株式会社ウェザーニューズの気象予報士・吉良真由子氏が前編(リンク)でそう語り終えた後、イベントは参加者を巻き込んだワークショップへと移った。

 

「緩和」と「適応」という異なる出発点からそれぞれのチームが議論を深めた結果、両者が共通の答えに行き着くという興味深い結果がでる。後編では、その過程で飛び出したアイデアと、吉良氏が語った「明日からの一歩」をお届けする。

「緩和」と「適応」両面からのアプローチを議論

株式会社ウェザーニューズの気象予報士・吉良真由子氏が登壇した前編(リンク)では、科学的データをもとに、100年後の東京が直面する過酷な気候リスクと、それによってビジネスが受ける影響が提示された。同時に語られたのは、「明日の天気は変えられなくても、100年後の天気は変えられる」という力強いメッセージだ。気候変動を「守り」から「攻めのイノベーション」へと捉え直す視点を掲げたイベントの後半は、参加者全員が参加するワークショップへ。最初の問いは「気候変動が進む今、仕事をしている私たちはどんなアクションができるだろうか——『緩和』と『適応』のどちらがより重要だと感じるか?」というものだ。

 

「火の元を消火すべき」と根本原因である温室効果ガス削減という緩和重視の意見がある一方、デベロッパーの実務者からは「ハザードマップを見る限り、浸水対策は待ったなしです。だけれどその適応コストを事業として背負う負担は大きい」というシビアな現実も。「日本が努力しても世界全体が変わらなければ温暖化は止まらないため、適応せざるを得ない」「仕事上は適応だが、個人の理想は緩和」など、さまざまな声が上がった。

 

「大体は6対4で緩和派が優勢」という全体感を確認した上で、参加者は「緩和チーム」と「適応チーム」の2つのテーブルに分かれ、ポストイットを手にブレインストーミングに突入する。

 

<緩和チームへの問い>

「100年後もお花見ができるよう、気候変動を緩やかにしていくにはビジネスで何ができるか?」

 

<適応チームへの問い>

「この過酷な暑さや極端な集中豪雨を前提とした時、ビジネスでどんな適応ができるか? 何を変えていけるか?」

 

各チームでの約20分間の白熱したディスカッションを経て、それぞれ実践的かつ自由な発想のプランが発表された。

 

まず「適応」チームは、「暑さ」「水害」「四季の喪失」という3つの課題に対してアプローチを提示。暑さ対策では体質改善サプリなどで人間側の受容感覚をコントロールする発想、雨水・気象対策ではビルの屋上に豪雨を一時貯留し外壁全体に流して気化熱で建物の温度を下げる「蒸散ビル(ウォーターカーテン)」の構想が挙がった。

 

「秋に八重洲でオープンするTOFROM YAESUのようなビルから常に水が流れ落ちていたら面白いのでは」という発想から生まれたもので、都市型水害を防ぎつつ空調エネルギーも削減する。さらに「冬の雪を貯蔵して夏の冷房に回し、その雪を天然氷のかき氷として高付加価値販売する」といった資源活用の発想も。四季の消失対策では失われゆく季節感を取り戻すために「あえて秋のアイテムを打ち出す」など、情緒を再創造するビジネスが提案された。

これらのアイデアに対し、吉良氏は「特に『蒸散ビル』は素晴らしいですね。水害リスクという厄介な要因を、発想の転換によってポジティブな価値へと反転させています」と感嘆する。

 

続いて「緩和」チームからも大胆なビジネス構想が次々と飛び出した。温室効果ガスを単に「削減すべきゴミ」として扱うのではなく、回収・固定化して工業用ダイヤモンドなどの高付加価値素材へと変換する「温室効果ガスの資源化」、建物の外壁に水を流して空調エネルギーの消費を抑える「外壁冷却」、そして気候危機の現実を広く伝える教育・表彰ビジネスの構築、という3つのアプローチだ。

 

これらの提案を受け、吉良氏は「大気中の温室効果ガスをゴミではなく『資源』と捉え直す視点は非常に面白いですね。何より、適応と緩和という異なる出発点から議論を始めた両チームが、共に『ビルの外壁に水を流す』という全く同じ解に行き着いたことは、これが今すぐ実践できる極めて現実的なソリューションである証拠だと思います」と笑顔を見せた。

100年後の天気を変えるため、明日から踏み出す「最初の一歩」

最後に、参加者には双方の議論をさらに発展させる問いが投げかけられる。

 

「緩和と適応を同時に進めるとしたら、ビジネスでどんな展開ができるだろうか?」

 

わずか5分間ながら、両チームから率直なアイデアが提示された。緩和チームは「人間の側の体質改善と生活リズムの変革」に着目。暑さや寒さに強い身体へとチューニングできれば冷暖房への依存度が下がり、結果としてCO2排出を抑制できるという視点だ。一方の適応チームが提案したのは「貯留した雨水を活用した、地域分散型の水素・水力発電」。都市に降るゲリラ豪雨の雨水を貯留して発電に生かすことで、水害対策と再生可能エネルギー創出を両立させるアプローチだ。吉良氏も「水を敵にせず味方につけ、地域の資源を生かして地産地消する素晴らしいアイデア」と評価した。

 

イベントの締めくくりとして、吉良氏は「私たちが明日から踏み出せる一歩」について語った。

 

「明日からいきなりビルの外壁に水を流す設備を作ったり、大規模な治水インフラを導入したりすることは難しいかもしれません。でも、今日こうして集まって対話したように、信頼できる家族や友人、同僚と『これってこう変えたら良くなるかもね』と気候や街の未来について言葉を交わしてみることなら、明日からすぐに始められます。まずは身近な仲間を見つけて話してみること。そこから未来は動き始めます」(吉良氏)

 

(文・須賀原みち/写真・後藤秀二)

プロフィール
吉良 真由子
Mayuko Kira
株式会社ウェザーニューズ 気象予報士/『100年天気予報』

入社当時は鉄道事業部に配属され、鉄道事業者向けの気象予測を担当。その後、約5〜6年間は気象予測業務に従事し、その間に気象予報士の資格を取得。2020年からは気候変動プロジェクトチームに移り、データ分析やカスタマーサービス、アプリ開発など多岐にわたる業務を経験。2025年からは予報センターへ異動し、現在はウェザーニュースLiVEで「100年天気予報」という気候変動をテーマにした動画解説を担当している。