【東京建物1/2】Basque Culinary Center 日本の食プレーヤー30社60名との共創イベント初開催
美食の街として知られる、スペイン・バスク州のサンセバスチャンに2011年に設立された料理大学Basque Culinary Center(BCC)は、ガストロノミーとサイエンスを融合させ、食の世界を全方位から学ぶことができる、先鋭的な学術機関として世界中から注目を集めている。
2024年4月15日、東京建物とTokyo Food Institute(TFI)の共催で、BCC初となる日本向けのイベント『BCCワークショップ』が現地で開催された。欧州最大級のフードテック展示会「Food 4 Future」前日に行われたこのイベントの模様を東京建物の沢田明大と吉田有希に聞いた。
BCCと東京建物によるキャンパス構想とは
現在、東京建物はBCCと『Tokyo Gastronomy Innovation Campus構想』を推進している。BCCが10年以上にわたり培ってきた知見を、日本の食にまつわるプレイヤーにインストールすることを目的に、八重洲の東京建物本社内に2026年開校予定だ。
「食のイノベーションを創出してきたBCCの講義だけではありません。BCCはこれまでアカデミア、研究機関、スタートアップ、政府機関などと共創することで、異分野融合によるイノベーションを創出してきました。日本でもBCCの知見と、食の大企業やスタートアップなどの横断的な共創により、日本ならではの新たなイノベーションが生まれる場にしたいと考えています。そのためTokyo Gastronomy Innovation Campusでは、キャンパス機能のほかに、リビングラボの概念を取り入れたカフェも併設予定です」(沢田)
東京建物とTFIは開校までのイントロダクションとして、2023年10月に1Dayコース「ガストロノミーイノベーション教育プログラム」(リンク:https://tokyofoodinstitute.jp/column/gastronomy-innovation/)を開催。BCCイノベーションからシェフリサーチャー2名が来日し、食企業のR&D担当者と科学者向け、シェフ向けの2部制のセミナーを実施した。
「1DayイベントはBCCのガストロノミーサイエンスとは何かなど、BCCを日本に紹介することが開催趣旨でした。そこで次のフェーズとして、日本の食にまつわるプレイヤーがBCCを訪れ、自分たちの事業を彼らにプレゼンすることで、参加者が共創の可能性を探るということを目的に、企画をしました」(沢田)
今回のBCCワークショップには、食関連の大企業やスタートアップ、シェフ、行政、大学、ベンチャーキャピタル(VC)など、30社60名が参加。日本からBCC現地に、より参加しやすくなるよう「Food 4 Future」開催前日に日程を調整した。
ワークショップでは、18社が4分のピッチを行い、それに対してBCCが4分の質疑を行うという形で行われた。英語でのプレゼンということもあり、渡欧2週間前にはTFIアドバイザーの外村仁氏による「海外プレゼン道場」も開催。各企業が用意した資料を基に、グローバル市場で有効なプレゼン術がレクチャーされた。
「例えば、日本企業は沿革の説明などからプレゼンに入りがちですが、海外のプレゼンにおいては、現在の取り組みと課題など、ポイントを絞ることが求められます。シリコンバレーで様々なスタートアップと企業との橋渡しをしてきた外村氏のアドバイスを受けて、各企業のプレゼン力は格段にアップしました。」(吉田)
ワークショップを通じ、BCCとの共創が具体的に
現地に到着した参加者はBCCのキャンパスを視察後、デジタルガストロノミーイノベーションラボなどを行うBCCのLABeに移動し、ピッチを行った。
「BCC側も日本とのワークショップを前向きに捉えていたのが印象的でした。今回、スタートアップの5社は東京都のスタートアップ支援展開事業である「TOKYO SUTEAM」の補助金を活用して、弊社が招待しましたが、それ以外の企業はみなさん自費で参加しています。そんな日本企業の熱量もBCCには伝わっていて、ピッチにはグローバル戦略担当者やマスタークラスのカリキュラム担当者など、5人ものBCCメンバーが参加し、質疑応答も活発に行われるなど、共創への大きな可能性を感じました」(吉田)
「今回のイベントで我々が重視したのはタッチポイントの多さです。ピッチを行い、質疑応答をして、その後に自社の製品を試食してもらいながらネットワーキングを行い、個別面談も継続して行う。4回超もタッチポイントがあるので、課題に対してより深く話をすることができます。質の高い対話を重ねたことで、共創が現実的となり、帰国後もBCCと面談を続けている企業もあります」(沢田)
先鋭的なガストロノミーサイエンスに触れるため、近年、世界中の企業や自治体などがBCCを訪れているが、単発の機会を設けるだけでは、一過性の視察で終わり、次の一手に繋がりづらいというのが現状だ。
「今回参加したメンバーのなかにも、かつてBCCを訪れたことのある企業がありました。ですから、必ずしも我々を介さなくてもBCCにアクセスすることはできるのですが、単独では次のフェーズに繋がりづらいわけです。我々はBCCと継続的に連携をとっていますから、そのコネクションの中で商品開発を進めたいというリクエストは多い。また、我々はコンサルティング会社ではありませんから、そこで利益を得る必要がありません。むしろ我々が持つ場所やネットワークを提供し、東京から世界へと食の発信していくことこそが重要な役割だと考えています」(沢田)
ワークショップを通じて、各企業もBCCとの連携の可能性を感じているという。
日本の調味料を欧州で広めたいと考えているある食品メーカーは、BCCから地域ごとの味や辛さの嗜好性の違いなどをアドバイスされた。
「同社はこれまで現地で市場調査をして、テストマーケティングを行い、製品開発へとつなげてきましたが、ヨーロッパですでに多くの企業と取り組みをして、成果を上げているBCCと共創することで、これまでと違う商品展開の可能性を感じているようです」(沢田)
また、3Dフードプリンターを開発するアカデミアは、商品をどのように受け入れてもらえるかという課題を抱えていた。
「商品についてはもちろんですが、ガストロノミーサイエンスを行なっている人たちと、3Dフードプリンターの使い方はどうあるべきか、どこを目指すのかといった議論も行えたことに価値を感じたとおっしゃっていました」(吉田)
フードテック事業なども行う政府機関も参加。「BCCには行政出身者も多く、行政の巻き込み方には学ぶべきところが多いと考えています。そのためピッチ登壇して、官がやるべき役割とは何かという視点での話をしていただき、その後の活発な意見交換につながってました。」(沢田)
BCCが感じる日本の可能性とは
現在、BCCはグローバルキャンパス構想として、世界五大陸での展開を視野に入れている。
『Tokyo Gastronomy Innovation Campus』がその第一歩として選ばれたのは、東京建物とTFIと築き上げてきた信頼関係によるところが大きい。
「また、BCCは毎年、食のスタートアップを対象にした、国際ピッチコンテスト『Culinary Action on the Road by BCC』を、各国で開催しています。日本では我々との共催で過去2回開催し、今年も11月に開催を予定しています。BCCは食の未来を考えたとき、自分たちだけでアクションを起こすだけでなく、他のプレーヤーと繋がり共創することでイノベーションを起こそうとしています。我々は食の未来に対して、オープンイノベーションで共創していくという理念を持っていますから、BCCのパートナーとして方向性が近いと思っていますし、実際、BCCからも世界的に見て、すごくユニークなハブだと言われています」(沢田)
Tokyo Gastronomy Innovation Campusは開校に先立つ次のアクションとして、2024年11月にガストロノミーイノベーションをさらに深く学ぶ、BCCコースの開催を予定している。日本企業とBCCがどのような共創を行っていくのか、今後の動きにも注目してほしい。
沢田 明大
Rocky SAWADA
北海道帯広市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、東京建物株式会社にて、住宅事業を担当し、米国東京建物駐在を経て、国内外不動産のクロスボーダー取引を担当。2021年より、サステナブルのその先“リジェネラティブ”な社会を東京から実現するため、様々なみなさんとFOOD食を軸とした共創とイノベーション創出をサポートしている。
吉田 有希
Yuki YOSHIDA
早稲田大学基幹理工学部にて電子物理学(高周波回路論)を専攻。2020年東京建物に入社。緊急事態宣言が何度も発令される中渋谷・六本木エリアのオフィスビル管理を担当し、プロパティマネジメント業務の傍ら新しいオフィスビルの在り方や事務所がもつ可能性を探る実証実験などを行う。2023年より一般社団法人TOKYO FOOD INSTITUTEへ事務局として参画。Future Food Innovation Workshopやチャレンジキッチンの運営業務、RegenerAction Japanの企画運営業務などに携わっている。
後編へ続く