地球や社会、そして人々のウェルビーイングを同時に追求し、
マルチステークホルダーに対して多元的な価値を
生み出し続け、豊かな未来を創ること
リジェネレーションの定義
リジェネレーションは、狭義では自然が本来持つ生成力を取り戻すことを含めて環境を再生させることを指します。再生可能エネルギーへの転換や、土壌の力を損なわない再生農業の拡大がこれに該当します。
一方、広義では経済価値だけではなく、社会的価値も含めたネットポジティブな社会への変革を指します。サステナビリティやSDGsが現在の経済成長モデルを存続する前提で、環境へのダメージをマイナスからゼロにすることを目指す取り組みであるのに対し、リジェネレーションは環境に対してポジティブな影響を与えることを前提に、一人ひとりの個人や私たちが暮らす共同体としての社会全体、地球など、様々なステークホルダーに向けて、単なる環境保護にとどまらず経済、社会、文化などの多元的な価値を創出し、より豊かな未来を築くための包括的なアプローチです。
都市におけるリジェネレーションの事例
例えば、ウォーカブルシティは、都市から自動車を減らして排ガスを削減するだけでなく、人が歩くことによって個人の健康も増進し、街の中ですれ違う人が増えることによるコミュニケーションも増え、街の中で過ごす時間が増えることでの街への愛着も生まれるといった多元的価値を生み出しています。
便利な自動車から不便な徒歩への移行で、経済成長だけを優先すると、「歩く時間」=「コスト・非効率」となりますが、別の視点で見るとそれは「将来への投資」となります。
また、都市農園は都市における緑化を進められるだけではなく、栽培する活動自体がサービスとなりユーザーが会費を払って食糧生産に参画する仕組みになります。そして食材を共に作る過程でコミュニティが創発され、土や自然に触れることで人々のウェルビーイング向上に寄与します。都市の食料自給率を高め、遠方からの食材輸送も減らすことができ、その分エネルギー消費も減らすことができます。「野菜を育てる時間」=「労働」となりますが、別の視点で見るとそれは「将来への投資」となります。
リジェネレーションが生まれた背景と必要性
産業革命以降、経済成長を是とする技術革新が進められてきましたが、気候変動の懸念が高まり、環境を保持しながら経済成長を進める必要性が強調されるようになりました。SDGs(持続可能な開発目標)やCOP(気候変動枠組条約締約国会議)などの国際協調の枠組みが設けられ、各国政府や民間企業、個人が環境改善目標の達成に取り組んでいます。
しかし、これだけでは不十分であり、SDGsの浸透だけでは充分ではないこともわかってきています。SDGsはあくまでも今の経済成長モデルを存続する前提で環境破壊を止めようとするもので、経済成長を続ける限りなくなりません。SDGs達成に必要なコストを誰が負担するかも大きな課題です。そんな中、そもそも今の経済成長のあり方自体を見直す必要があるのではないかという議論が出てきています。
また、アラブ諸国に広がったアラブの春やイギリスのブレグジットなどにより、GDP成長が必ずしも人々の生活満足度やウェルビーイング向上に繋がらないことが示され、AI含めた情報革命・デジタル技術が格差の広がりや社会の分断を生みだし、COVID-19 による社会の繋がりや人々のウェルビーイングや生き方を見直す動きが強まっている中、これまでの経済成長モデルという経済資本に重心を置いた考え方ではなく、地球、社会、人々のウェルビーイングを中心に据えた、私達が求める価値やこれからの新しい成長を定義する議論が活発化してきています。
企業がリジェネレーションに取り組む意義
リジェネレーションは既存リソースを活用し、多元的な価値を生み出し続けるものであり、リソースを搾取する従来の経済モデルと比較すると経済合理性が十分にあるといえます。
また、環境と経済がトレードオフの関係ではなく、リジェネラティブな仕組みを回せば回すほど、環境も経済も回る世界になります。そのため、上記の社会的背景とリジェネレーションの持つ経済合理性を踏まえると、企業がリジェネレーションに取り組む意義があるといえます。
日本におけるリジェネレーション
欧米のように自然と人間が独立した関係ではなく、日本では、自然と人間が一体となった多神教的な価値観が根付いており、個の概念よりも、他者との関係性の中に自己を認識多極的な社会となっていて、相互同調し合う傾向があります。そのため、三方よしなどの多元的価値を創出する考え方を得意とする国民性があり、これがリジェネレーションの考え方と親和性が高いといえます。
日本特有の「多元的価値」をグローバルに提唱できることは、リジェネレーションを進めていく上での日本の強みと言えるでしょう。