2026.06.05

【特別対談】リジェネラティブ経営をどう実装するか──トップの覚悟と「心の声」

ヨーロッパ初のベネフィット・コーポレーションを立ち上げ、イタリアで再生型ビジネスの法制化を牽引してきたNATIVAの共同創業者、エリック・エゼキエリ氏は、前項でリジェネラティブ・ビジネスが、もはや理想論ではなく、経済合理性に基づいた「当然の選択」であることを、自らの体験をもって提示した。

 

では、企業はその理念をどのようにして具体的な経営の現場に落とし込めばよいのだろうか。後編では、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香氏との対話を通じて、その実践的な道筋を探ってみたい。KPIの設定からトップマネジメントのマインドセット変革、そして「危機」が果たす役割まで、変革の核心に迫る議論が展開された。

まず始めるべきは「内なる声」を聞くこと

谷本有香氏(以下、谷本エリックさんはこれまで、リジェネラティブな原則を経営に統合することを自ら実践し、同時に多くの企業の取り組みもサポートしてこられました。ただ、その重要性は理解していても、具体的にKPIや人事、経営管理にどのように組み込んでいけばよいのか、悩みを抱えるサステナビリティの推進担当者も少なくはないでしょう。最初のステップとして、私たちはまず、何から取り組むべきだとお考えですか 。

 

エリック・エゼキエリ氏(以下、エゼキエリ少し奇妙にも聞こえるかもしれませんが、まず行うべきは「精神的な(spiritual)ステップ」だと私は考えています。これは決して合理的なものではないかもしれません。それでもまずは、経営者や担当者自身が、「これは本当に正しいことである」と深く感じる必要があります。

そのきっかけは、おそらく人によって異なるでしょう。自然との深いつながりから感じる人もいれば、友人や他者、つまり人類全体とのつながりから感じる人もいるはずです。

 

同時に、将来世代とのつながりに目を向けることも重要だと考えています。個人的な話になりますが、私には20歳と24歳になるふたりの息子がいます。彼らが私の今の年齢になる2050年代、2060年代の地球の状況に思いを馳せたとき、私は強く、「すべてを変えなければならない」と思うんです。私は子どもたちを大切に思っていますし、彼らに対する全責任を感じているからです。現代を生きる私たちの存在意義は、「つないでいくこと」にあるのではないでしょうか。

 

谷本:なるほど。まずは個人としての内発的な気づきが第一歩だということですね。その次のステップはどのようなものでしょうか。

 

エゼキエリ:第二のステップは、「マネジメントとビジネスの知恵(wisdom)」です。もしあなたが賢明なマネージャーやリーダーであれば、これが自分のビジネスにとって良いことであり、明らかに勝つための方向性だと理解するでしょう 。

 

そして第三に、「運用(operative)ステップ」が来ます。ここで初めて、具体的なツールや能力を手に入れる必要が出てくるでしょう。KPIや測定ツールの詳細には立ち入りませんが、現在私たちは、リジェネレーションに関する自社の立ち位置をかなり正確に測定できるようになっています。まずは測定し、どこに到達したいかという、戦略的で野心的なアイデアを定義し、そして計画を設計して実装する。私たちは企業とパートナーシップを組み、この計画を実際に実装していくことを大切にしています。

 

重要なのは、年々この計画を実行していくなかで、短期的な利益を生む選択が、将来のより強力で収益性の高い選択の基礎となるようにすることです。

変革のカギを握るトップマネジメントと「危機」

谷本:日本において、このリジェネラティブなモデルを実現するために、最も関与すべき重要なステークホルダーは誰だとお考えですか。政府でしょうか、それとも他に関与すべき相手がいるのでしょうか。

 

エゼキエリ:セクターや課題によるので一概には言えませんが、一般的に言えば、最も重要なステークホルダーは企業のリーダーシップ、つまり経営幹部や株主です。

 

リーダーシップを発揮することは複雑ですが、未来に向けて大胆に導く能力が求められます。私たちが手がけるすべてのプロジェクトは、株主とトップマネジメントの関与から始まります。彼らが関与しない限り、リジェネラティブなイノベーションのツールが機能し、適切なスピードで前進することは非常に困難だからです。

谷本:トップマネジメント層がリジェネラティブな経営への変革に真にコミットするためには、どのようなマインドセットが必要なのでしょうか。

 

エゼキエリ:先ほど申し上げたように、私は内面的な要素が非常に大きいと考えていますが、変革を起こすためには、ある種の「苦しみ」が必要であることも分かってきました。ビジネスが順調であれば、革新的な方向へ進む必要性を強く感じないからです。

私はこれをよく、「ガラス」に例えて話しています。ガラスが冷えているときは形を変えることができませんが、多くのエネルギーを加えて溶かせば、どんな形にも変えることができます。危機とは、ガラスを溶かして新しい形が現れるのを可能にするエネルギーのようなものです。歴史的に見ても、既存のモデルでは対処できなくなったときに、新しいモデルへと移行してきました。

 

ただし、リスクもあります。危機が発生したときには、前進するのではなく、かえって後退してしまうこともあるのです。だからこそ、他の人々が触発されて同じ方向に進めるよう、良い模範と、率先して道を切り拓く良いリーダーシップが必要なのです。

心の奥底で感じていることに耳を傾けて

谷本:最後に、ビジネスリーダーたちに向けてメッセージやアドバイスをお願いします。

 

エゼキエリ:やはり私は、「自分の心の声を聞いてください(listen to your heart)」と伝えたいですね。

 

これこそが、優れたビジネスの本質だと私は思うのです。心や魂がなくてもビジネスを運営することはできますが、最終的にそれはリジェネラティブなビジネスにはなりません。前述したように、もしもビジネスがリジェネラティブでなければならないのではないかと気づき始めているのであれば、おそらく、あなたが心の奥底で本当に感じていることに耳を傾けるべきです。それが、あなたにとって最も重要なことであるはずです。

 

谷本:エリックさん、とても貴重なお話をありがとうございました。

セッションを終えて

エリック・エゼキエリ氏と谷本有香氏の対話は、リジェネレーションの理念を企業経営の実践に落とし込むための、本質的な道筋を示すものだ。

 

リジェネレーションの実装は、KPIや測定ツールといった技術論から始まるのではなく、まず個人が自然、人類、そして未来世代とのつながりを感じ、「正しい」と信じる内なる気づきから始まる。

 

「自分の心の声を聞くこと」。エゼキエリ氏が最後に贈ったこのシンプルな言葉こそが、リジェネラティブな未来を切り拓くための最も強力な羅針盤となるのではないだろうか。

プロフィール
エリック・エゼキエリ
Eric Ezechieli
NATIVA co-founder

ヨーロッパ初のベネフィット・コーポレーションであり、イタリア初のB Corpである NATIVA のレガシー・オフィサー。同社はパオロ・ディ・チェーザレと共同創業し、リジェネラティブなビジネスモデルの普及を加速させることを目的としている。
2016年には、ベネフィット・コーポレーションをヨーロッパに導入し、またイタリアにおける同法人格の導入に寄与した功績により、グローバルBコーポレーション運動から 「Most Valuable Player 2016」に選出。2018年には「Good Lobby Award」を受賞。
これまでに The Natural Step International 会長、Singularity University Italy の共同創設者、そして G7 People Centered Innovation Advisory Board のメンバーを歴任。
また、Assobenefit の共同創設者兼理事、Regenerative Society Foundation の共同創設者兼理事でもある。
谷本 有香
Yuka Tanimoto
Forbes JAPAN 執行役員
Web編集長

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカー後、米MBA取得。日経CNBCキャスター、同社初女性コメンテーター。オードリー・タン台湾デジタル担当大臣、トニー・ブレア元英首相、アップル共同創業者スティーブ・ウォズニアック等、4,000人を超えるVIPにインタビュー。TOKYO MX「堀潤 Live Junction」の経済コメンテーター他、フジテレビ「サン!シャイン」、ABEMA TV「FOR JAPAN」、TOKYO MX 「おはリナ」、J-WAVE「JAM THE PLANET」、TBS「坂上&指原のつぶれない店」、TV出演多数。経済系シンポジウムのモデレーター、政府系スタートアップ企業役員としても活動。立教大学大学院社会デザイン研究所 アドバイザリーボードメンバー。2016年2月よりForbes JAPANに参画。2022年1月1日より現職。